ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
「丹下先生?」


その場にしゃがみこんだ私に駆け寄ってきてくれたのは、まこと先生じゃない。琴羽さんだった。


「大丈夫?」

「今、まこと先生がいらしたような気がして。
琴羽さんだったんですね」


よく見れば琴羽さんは、濃いグレーのパンツスーツを着ていた。髪型も、肩下のワンレングス。
どうして見間違えたんだろう。


「真菜さんって呼ばれて。あれ、でも、琴羽さんは、私を下の名前で呼んだりしない」


「…ママ、来てたのかもしれないわ。初音の弾くショパンの『別れの曲』大好きだったから。
私、あの曲を聞くと涙腺がダメなの。初音には悪いけど逃げてきた」


そうつぶやく琴羽さんはいつもの無表情だけど、目尻が濡れている。手には男物のハンカチを持っていた。


「丹下先生、立てる?」


琴羽さんが手を差し伸べてくれた。
その手を掴もうとして。

あれ?

体に力が入らない。
ふうっと、視界が回って、暗くなって…





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