お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~

それから二週間程の間に、何度か航太郎さんと冴木の自宅を訪れては子猫を眺め、途中からは抱っこまでできるようになった。
そして今日、私たちは正式に猫を引き取ることに決めた。
もう少しゆっくり考えても良かったのだけど、航太郎さんが早く引き取りたいとうずうずするので、思いのほか早く我が家に猫がやってくることになる。

「航太郎さん、すごく楽しみにしてましたね。そんなに猫が好きなんですか?」

「いや、まぁ猫は好きだけど」

なんとなく歯切れの悪い航太郎さんに小首を傾げる。

「猫は、俺と翠がふたりで飼うでしょ」

「……はい、そうですね……。 あっ…」

そこで航太郎さんの言わんとすることを理解した。

「私がマンションを出る時、子猫も連れていきますのでご心配なく…!」

「いや、あんな小さな子だ。 住むところを何度も変えてしまったら可哀想だよ。ストレスになってしまう」

航太郎さんが余裕満々な不敵な笑みを浮かべるので、私は自分の計画性のなさに打ちのめされていた。
そうだよ。 今住んでいるところはペットOKでも、いずれ姉が帰ってきたら私は出ていくのだから。
そしてそうなった時、猫の住む環境が変わるのは間違いなくあの子にとってストレス……。

「翠の気が変わらないうちに猫を迎え入れて、逃げられなくしようと思っていたのは否定しないよ。 まあ、そうでなくても、俺は翠と離れるつもりはないけどね」

あんなにノリノリだったのは、単に猫が大好きだからだと思っていた私が馬鹿だった。
三間航太郎は、そんな単純な人間じゃない…。
何も言えずに黙り込む私に、航太郎さんはしてやったりって顔で微笑む。
どんどん外堀が埋められていくのを実感していた。
偽装夫婦を続けられるのは残り一ヶ月。姉が帰ってきてもこなくても。…これ以上攻められるわけにはいかない。

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