お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
その日、私たちは都内の大型ショッピングモールに来ていた。
土曜ということもあり、家族連れや友達同士できていたりとなかなか混みあっている。
航太郎さんは私の手をしっかりと握り、前から人が来るとさっと距離を縮めて避ける。
私を庇うようにするのだから、護衛されている気分だ…。
「翠、記念すべき初デート、まずはどこに行こうか。 俺はやりたいことが多いよ。いちばんは翠を俺好みに仕立てることかな」
「デートじゃありませんし、今日は子猫のグッズを買いに来ただけでしょ。 いちばんなんて聞いてないし」
本当は手だって無理やり繋がれて、手汗をかきそうで今すぐ離したいんだから。
「いつにも増して冷たいなあ。 あ、ここの服、翠に似合いそう」
私の話なんて聞いていないみたい。
航太郎さんは私を連れて、オシャレで、自分では絶対に入らないようなブランドのお店へと行く。
「翠はスカートが似合うよね。 ノースリーブも見てみたいところだけど、露出が多いと心配だし……」
既に私に三着も服を持たせて試着させようとしているのに、真剣にあれもこれもと悩んでいる。
航太郎さんが選ぶものはシンプルで、かつ大人のこなれ感みたいなのが溢れていて不思議なことに私の好みにも合っているから、結構楽しいっていうのは内緒にしておこう。
デートと言われ続けて散々冷たくあしらってきた身だもん……。
「翠がほしいコーデとかある?」
ふと航太郎さんに問われて、少し考えてから答える。
「今度、お母様たちがいらっしゃる時の洋服がほしいです。 私のセンスじゃどうしても不安で」
「そんな気ぃ使わなくていいのに。 母さんも父さんも、服なんて着てればそれでいいって思ってるよ。 でも、翠がほしいなら俺が見繕う」
「ありがとう。 お願いします」
私がほっとした笑みを見せてそう言うと、航太郎さんは楽しそうにまた服を物色しだした。
冴木がこの間言っていた通り、航太郎さんのご実家に顔を出せずにいたら、向こうから来たいと仰ってきた。
突撃訪問ではなかったのが幸いで、私は今から一週間も先のことで頭がいっぱいだったりする。
もうひとつ、明後日やってくる子猫のことも楽しみにしているけれど。