お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
その日、私たちのマンションに冴木がやってきた。
子猫のトロを連れてきてくれたのだ。
「良かった、無事里親が決まって。 しかも身内なら、いつでも会えるもんなー」
人のいい満面の笑みでトロに話しかける冴木。
「俺と翠の新婚ライフを邪魔しない程度にしろよ」
対して航太郎さんは、威嚇の勢いで反論する。
冴木は肩を竦めて私に視線をやる。
「結婚してないし、いつでも会いにきてよ。冴木」
私が冴木の肩を持つので、面白くなさそうに航太郎さんが眉間に皺を寄せた。
「それにしても、トロって独特なネーミングセンスだよな」
冴木がトロの顎を撫でてやりながらそんなことを言う。
「え〜、可愛いじゃない!」
「サーモンじゃん」
その一言で、私は笑いが込み上げてきた。
「さすが兄弟だね。 航太郎さんも同じこと言ってたよ。ほんと、仲良いんだから〜」
お腹を抱えて笑っていると、ふたりが不機嫌に顔を見合わせる。
「今日の夕飯、お刺身だよ。 良かったら食べていく? サーモンもあるし」
仲良し兄妹が揃ってサーモンを食べている姿を想像して、また笑いが止まらなくなる。
「まじで〜? やった、ゴチになりまーす」
けれど冴木は食欲が勝ったようで、航太郎さんの見るからに嫌そうな断れオーラを無視して嬉々とする。
「ほら、お兄ちゃん、いいでしょ?」
わざと航太郎さんをそう呼んでみれば、彼は渋い顔をしながらも「他でもない翠の頼みなら仕方ない」と了承してくれた。
それから、航太郎さんとふたりで行く予定だった買い物は兄弟が買ってでてくれて、その日の夜は楽しいひと時を過ごした。