お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~

「っ、あなた…本当に嫌な人だわ。いい加減にしてよ!私の航太郎くんを返して!」

「そうは言われましても、航太郎さんは私の旦那さんなので、渡せません。愛する人を自分から手放すほど、馬鹿じゃありませんよ、私」

「婚姻届もだしていないくせに、どの口でそんなことを!」

「結婚て、それだけが全てじゃないと思います。事実婚ていうのもありますしね。愛し合っていれば、戸籍なんて関係ないですよ」

こんな考えは、航太郎さん譲りだけどね。
前に航太郎さんが言っていたことを思い出して、上手く繋げていい感じのことを言ってる風を装う。
案外効いたのか、松下さんはぎりりと歯ぎしりをして怖い顔をする。
マズイ…やりすぎたかも。
そうは思うものの、今更だ。
怒り心頭であろう彼女に火をつけてしまったからには、鎮火も容易くないだろう。
さて、どうしよう。

「うるさいわっ。あなたに何がわかるの!?愛する人を奪われた私の気持ちが!」

「そもそも、松下さんと航太郎さんに男女の関係なんてないでしょう?」

「はっ。夫の不貞を信じたくないのね?可哀想だけど、彼の心は私にしか向いていないわ」

ここまで来ておいてなんだけど、松下さんとは何を話しても埒が明かない。

「…それはどうでしょう。彼は毎日私に愛を囁いてくれる。少なくとも、私だって愛されていると思うんです」

それなのに、止まらない。私の中の嫌な感情は留まることを知らないかのように溢れ出てくる。

「航太郎くんが二股をかけているとでも言いたいの?彼はそんな人間じゃない。あなたは航太郎くんのことを、何も分かってない!」

後半は叫ぶように言ったかと思うと、ずんずんと私に近づいてくる。
接近されたのは初めてだったから、松下さんを怒らせたのは自分だけど、我ながら本当にまずいことをしてしまったのは明白だった。

マンションの前には、階段が続いている。
階段を登りきったところはマンションの敷地っぽい雰囲気があるので近寄りがたかったのか、松下さんはいつも階段の途中の踊り場で私を待っていた。
今も、そのあまり広くないスペースでみっともない口論を繰り広げている。
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