愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 母と別れたあくる朝、私はひとまず帰ることにした。
 一人暮らしを始めた部屋は横浜にある。

 実は密かに借りてあった。離婚を決意した半年前に、こっそりと。

 ミニマムといえば聞こえがいいけれど、最低限度しか物がない部屋に入り、ソファーに腰を下ろす。
 今後の生活を考えようと瞼を閉じたところでスマートホンが揺れた。けたたましいこの揺れ方にセットしてあるのは父からの電話だ。

『星光。明日家に帰ってきなさい』
「はい。わかりました」

 父の電話はいつもながら単純明快である。それだけ言って電話は切れた。

 さあどうなるか。

 兄には、詳しくは会った時にと言葉を濁したままだ。別れるからには一応それなりの理由を言わなければいけないけれど、正直に全てを話したら父の逆鱗に触れるだろうし、かといってそれらしい理由も難しい。

 性格の不一致では済まないだろう。
 無難なところで、仕事ばかりしていて全く顔を合わせない生活が寂しいとでも言っておこうか。

 説得力に乏しいけれど、かといってうまい理由が浮かばない。

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