愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 彼だけが悪いわけじゃないと思う。こうなるに至った、彼には彼の理由もあるはずだ
 私にはわからないだけで。

 とにかく。
 綾星さんに制裁を、なんて言い出さないように話を持っていかなくては。


 次の日。
 朝食をとってすぐ実家に向かった。

 田園調布の広い屋敷。
 タクシーを降りるところから寄ってきて出迎えるガードマン。物々しさも含めてこれぞ我が家と言うべきか。

 思わず苦笑が漏れる。

「お帰りなさいませ、お嬢さま」
「ただいま」

 私が子供の頃から住み込みでいるお手伝いのフジ子さんは、玄関に入って迎えてくれた時から既に涙を浮かべている。

「お嬢さま、大変でしたね」

「フジ子さんたら泣かないで。私は大丈夫よ。ほら、元気でしょう?」

 顔をあげたフジ子さんは安心するどころか、より一層の嗚咽を漏らす。私の母が家を出てからフジ子さんが祖母のように見守っていてくれた。

 出戻ってきた私が不憫に思えるのだろう。
 私は大丈夫とはいっても、無理をしているようにしか見えないのかもしれない。
 離婚というイメージがそうさせるのだろう。

 大切な人が私のために涙を流すのは辛い。
 ごめんなさい、フジ子さん……。

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