君は残酷な幸福を乞う
「フッ…!!!
大統領は、この俺に復讐したいの?それとも試してるの?」
「は?」
「この世の人物の中で、俺が消したくない人物って誰かわかる?」
何を考えているのかわからない笑みを浮かべた琉軌が、総理を見据えた。

「いえ…」
「嘘」
「え?」
「いいよ、言って?
怒んないから」
「恋人の池内 若葉さんです」
「うん、そうだね」
「彼女は、貴方の命その物ですよね?
一番大切な、幸せにしたい人物」
「だから、この女を殺せって?この俺に。
この女を殺せば、若葉から軽蔑されるとでも思ったの?
俺に復讐したいなら、なんで若葉を殺させないの?」
「それでは、貴方の心により深いダメージが与えられないと思ったからです」

「へぇー、考えたね!
でもさ、大統領の大切な妹を殺せって頼んだのは、大統領自身だよ」
「はい、でも…まさか“全て”消去するとは思わなくて……」
「わかってないね。大統領」
「え…?」
「俺の言う殺すとは“全部”だよ。
言葉通り“全て”その人間が生きてきた証も存在も全て。だから残るのは、生き残った人間の心の中でだけ」
「しかし!墓くらいは……」
「は?弔って何になるの?
墓の前で手を合わせて何になる?
だいたい、お前が“消去”を願ったくせに今更何を言っている」
「………」
「後、もう一つ言っておく」
「え?」
「俺の弱点は、若葉じゃない。
俺にとっての地獄は、若葉の傍にいれないこと」
「だから、それは…若葉さんが弱点では…?」

「うーん。
だって、もし若葉が殺されるようなことがあったら、俺もすぐに後を追うし。
そんなの弱点にならない。
それに俺がこの女を殺しても、若葉が俺を軽蔑なんかしない。
若葉は全てわかってて、俺とどこまでも落ちると覚悟してくれている。
大統領ともあろう者が、俺と若葉を見くびるな!」
「………」

「…………さぁ、選んで?大統領」
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