君は残酷な幸福を乞う
「え?」
「お前自身の死か、もう二度とこの俺を幻滅させないという誓約」

「申し訳ありませんでした。
どうか、命だけは……」
「一度だけだからね。選択肢を与えるのは」
「はい」

立ち上がり、ドアに向かう琉軌。
瑞夫がドアを開け、出る寸前に再度琉軌が言った。
「俺はいつでも、見てるからね…大統領。
この意味…わかるよね?」

「はい、数々のご無礼…申し訳ありませんでした」
総理と部下達が、並んで頭を下げたのだった。

車に乗り込む、琉軌。
「まさか李々子を出してくるなんてね」
瑞夫が運転席から、話しかける。
「そうだな」
相変わらず、窓の外を見ながら呟く琉軌。

李々子は琉軌や若葉が育った施設長の女性。
母親のように慕っていたのだ。

「なんで、選択肢を与えたの?」
「ん?大統領には、まだやってもらいたいことがあるから。まだつかえるよ、アイツは」
「そう。
あ、◯◯組の奴等…消えたから」
「ん。じゃあ…俺の頭からも消しとく」

もうすぐマンションに着くという時、琉軌は一度目を瞑る。
仕事中の自分を消し去る為に。
若葉の前ではできる限り、優しく穏やかでいたいから。

「着いたよ、琉軌」
「ん、ありがと」
目を開けた琉軌は、優しく瑞夫に微笑んだ。
先程、威圧感を出していた琉軌とは大違いだ。

「ほんと、別人だな……」
後ろ手を振りマンションに入っていく琉軌を見ながら呟いた瑞夫だった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ただいま、若葉」
「おかえり」
団が玄関に迎えにくる。

「……………若葉は?」
鋭い目で、団を見据える。

「電話してる。
さっきからずっと……」
「へぇー、誰と?」

「知らない。
………きっと、男だと思う…」
琉軌の目付きが、更に鋭く尖った━━━━━━━
< 16 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop