君は残酷な幸福を乞う
「琉軌…」
「………って、俺も犯罪者だけどね。
だから若葉は俺の“家族”になっちゃダメだよ!」

若葉は泣いていた。
「若葉、泣かないでよ…!」
「琉軌は何も悪くなかったのにね…
普通に愛されていれば、こんなことには……
今回の犯罪も、元は私のせいだし…」

「それは違うよ。
俺は施設に預けられてからは、ほんとに幸せだった。
何より若葉に出逢えたから。
こんなに愛しい存在に出逢わせてくれた場所だし。
若葉と毎日一緒に色んな話をして夢を語り合って、李々子に時々怒られながら過ごしたあの日々は、ほんとに幸せだった。
結局その李々子を手にかけちゃったけど……
でもそれは若葉を守りたかったから。
まぁそれは、お袋もそうなんだよな。
ただ、暴力の地獄から解放されたくて殺ったこと。
李々子の死体を見ながら思ったんだ。
やっぱ、俺達は親子なんだなって。
お袋のこと、軽蔑してたのに」

今度は、琉軌が泣いていた。
若葉は静かに琉軌の頭を撫でた。

「どうしてみんながみんな、幸せになれないのかな?
幸せになりたいって気持ちは、みんな同じなはずなのに……」
「そうだな。
それはね……みんな欲張りだからだよ」
「え?」
「例えば俺は、こうやって若葉の傍にいれるだけで十分なのに、今度は手に入れてしまうと放したくないって思ってしまう。
ほんとはみんな幸せを手に入れてるのに、欲張ってもっともっとって願うんだ」

「………そうかも。
私もこんな風に傍にいれるだけで十分なのに、奥さんになりたいって思っちゃってる」

「みんな、残酷に幸せを願い続けてる。
だから、結局犯罪が起こるんだ。
そしてその人間の気持ちを利用して商売してるのが、俺なんだ」
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