君は残酷な幸福を乞う
「琉軌」
「ん?」
「欲しいものがあるの」
「何?何でも言って?」
「私、琉軌が欲しい」
「うん、あげるよ?
若葉が受け入れてくれるなら、一晩中でも抱いてあげるよ?
ベット行く?まだ、夕食中だけどいいの?」

「違う。
私を琉軌の奥さんにして?」

「…………ごめんね…それは、できない…」
真っ直ぐ琉軌を見つめ、言う若葉。
その目を反らすことなく、琉軌も真っ直ぐ見つめ返し言った。

「どうして?」
「俺の世界に巻き込みたくないからだよ。
若葉にはわからないだろうけど、恋人と妻とでは全く意味が違うんだ。
それに、俺は家族なんかいらない。
……………あんな残酷な人間の集団なんて」
「琉軌?」
「あ、ごめんね…」

「私ね、琉軌と一緒に地獄に落ちる覚悟できてるよ」
「…でも…ダメ」
ゆっくり頭を横に振る琉軌。

「………だったら、私を捨てて?
振ってよ!」
「それも、できない!」

「……琉軌は、勝手だよ!
それに、残酷な人だね……!」

「そうだよ。俺は勝手で残酷で、ワガママだよ。
若葉を絶対に放すつもりないよ。
結婚しなくても、一生若葉の傍にいたいと思ってる」

琉軌のいる世界は、普通ではない。
琉軌はヤクザ組織全てを束ねる、魔王のような人物。
この世界に、琉軌に意見できる者はいない。
琉軌の言葉一つで、世界が変わると言ってもおかしくない程の力があるのだ。

琉軌と若葉は、兄妹のような幼なじみのようなもので、二人とも施設で育った。

琉軌は物心ついた頃から、かなり賢く、何をしても完璧にこなす“天才”だった。
学生時代、常にトップで一度本や教科書を読むだけで、全て頭の中で理解してしまうのだ。

容姿も可愛らしく、周りの大人を手の上で転がすことなど琉軌には簡単だった。

琉軌は、いつも頭の中で考えていた。
世界の王になりたい。
誰も自分に意見できないくらいの、独裁者になりたいと。


━━━そして自分なら、それができると確信していた。

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