すべてが始まる夜に
「茉里、そろそろ出ようと思うけど、準備はいいか?」

そう言って寝室からスーツケースを持って出てきた部長は、白のセーターに、オリーブ色のカーゴパンツを合わせ、お洒落なフード付きのグレンチェックのダウンコートを羽織っていた。
身長が高くて整った顔立ちの部長にはよく似合っていて、思わず見惚れてしまう。

会社で見るスーツ姿もかっこいいけど、私服姿もいつもかっこいいよね。

「んっ? どうした?」

「ううん、何でもないです。準備できました」

こんなかっこいい部長の隣を歩くのは、自分が見劣りしてしまいそうだ。

「茉里、スーツケースだけど俺と一緒に纏めて1つにして行ってもいいんだぞ。ほんとにいいのか?」

部長は自分のスーツケースをひとまわり大きいものにするから、一緒に荷物を纏めてひとつのスーツケースで行こうと提案してくれていた。

だけど私のスーツケースの中には部長へのクリスマスプレゼントが入っている。一昨日、悩みに悩んで買った淡いピンク色のネクタイだ。
今までお世話になった分、お礼として渡そうと思っているけれど、できれば今日の夜に渡すときまでは気づかれたくない。

「大丈夫です。下着とかお化粧品とか入ってるし……」

私の言葉に、部長が「そっか、じゃあ行くか」と頷いた。
私たちはそれぞれスーツケースを持ち、電車に乗ってまずは東京駅へと向かった。

久しぶりに東京駅で降りたけれど、改札の外も中もびっくりするほどの人で溢れかえっていた。
今日は土曜日でクリスマスイブ、そして日本の首都の東京駅となればこの人混みは当たり前のことだとは思うけれど、それにしてもものすごい人の多さだ。

歩いている人たちと何度もぶつかりそうになりながら、人混みを通り抜けて新幹線のホームへと上がると、私たちが乗る新幹線の準備がちょうど整ったようで、乗車できるようにドアがゆっくりと開放され始めた。
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