すべてが始まる夜に
「悠くん、あそこって何かあるのかな?」

「結構人が並んでるな。行ってみようか」

お店の前に行ってみると、ちょうど開店したのか、並んでいた人たちがどんどんお店の中へと入りはじめた。

「もしかして俺たちも入れるかな?」

「そうだね。並んでみよっか」

2人で行列の最後尾に並び、前の人について進んでいく。すると幸運なことに、お店の中にすんなりと入ることができ、2人掛けのテーブル席に案内された。

「運良く店に入れてよかったな。茉里、何がいい?」

部長がメニューを開いて私の方へ向けてくれる。
そこには美味しそうな海鮮丼や、お刺身や干物の定食などが載っていた。

「うわぁ、全部美味しそうで迷っちゃうな……」

「ほんとだな、これは迷うな」

「ねぇねぇ、この鯵のまご茶漬けって、福岡で食べた鯛茶みたいなやつかな?」

「あっ、ほんとだ。鯛じゃなくて鯵バージョンか。旨そうだな」

部長も珍しく悩んでいるようだ。

「よし、決めた! 茉里は決まった?」

「はい、決めました。金目鯛の干物定食にします」

そう言った瞬間、部長が「えっ?」と私を見る。

「迷ったんですけど、干物なんてなかなか東京じゃ食べないから、金目鯛の干物なんて珍しいし、だからこれにしようかなって」

「そっか。実は俺もそう思ってたんだ……」

「ほんとですか? じゃあ私、鯵のまご茶漬けにします。そっちと迷ってたので。だから悠くんは金目鯛の干物にして」

「いや、茉里が金目鯛頼んで。俺は金目鯛とほっけの干物で迷ってたんだ。だからほっけにする。その代わり、金目鯛を少し味見してもいいか?」

店員さんに金目鯛の干物とほっけの干物の定食をひとつずつ注文して、私は温かいお茶を飲みながら気づかれないようにチラチラと部長の顔を盗み見た。
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