すべてが始まる夜に
「悠くん、金目鯛半分どうぞ。私が頼んじゃってごめんね」

「俺も茉里にほっけを半分わけようと思っていたのに。俺たちやってることが一緒だな」

「そうだね。好きなものも似てるもんね」

部長は大きな肉厚のほっけの反身を私のお皿の上に置いてくれた。半身ずつの干物が仲良く並んでいる。
私はまず自分が頼んだ金目鯛の干物に箸を入れた。

「うわっ、これめちゃくちゃ美味しい! 悠くん、すっごく脂がのってるよ。干物ってこんなに美味しかったんだ……」

「ほんとだな。すごく身もふっくらとして脂がのって旨いな」

部長も美味しそうに干物やごはんをパクパクと食べている。

「ほっけも身がしまっていて脂ものってて美味しいし、お醤油がいらないね。お昼からこんなに美味しいものが食べれて幸せだな」

「茉里が幸せならよかったよ」

「悠くんは? 悠くんは、幸せ……じゃない?」

「俺ももちろん幸せだよ」

優しい瞳で見つめてくれる顔とその言葉を聞いて安心する。私だけひとりで楽しんで幸せだと思っていたのなら申し訳ないし、なぜか悲しい。

「茉里、ごはん食べたらどこに行きたい? 美術館か、ハーブガーデンか、パワースポットの神社か、熱海城、そして縁結びの神社に……、あとは食べ歩きか、この周辺の散策かな」

「いっぱいあると迷っちゃう……。悠くんはどこに行きたい?」

「今日は茉里が決めて。茉里が楽しむための旅行なんだからな。ただ、ハーブガーデンは明日の方がゆっくり時間が取れていいかもしれない。15時に旅館に行く予定だから」

あの中ではハーブガーデンがいいかなと思ったけれど、時間的に明日の方がいいというのであれば、次に行きたいのはパワースポットの神社だろうか。
縁結びの神社は部長と一緒に行くのが躊躇われるし、今ごはんを食べているので食べ歩きもきっと無理だ。そしてお城よりは美術館、美術館よりかはパワースポットの神社の方に惹かれる。
パワースポットの神社なら、新店舗が繁盛するようにお願いもしたい。

「パワースポットの神社に行ってみたいな」

「パワースポットの神社? 縁結びじゃなくて?」

「うん。なんかすごく力がもらえそうだから。そしたら来年の新店舗の開店も上手くいきそうだし」

「そっか……」

少ししょんぼりとしたような表情をした部長は、「じゃあパワースポットの神社に行くか」と呟くと、お椀に入っていたお味噌汁を全部飲み干した。
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