すべてが始まる夜に
ごはんを食べ終わってお店を出た私たちは、歩いて来た道を戻るようにまた商店街に向かって歩き始めた。

「ここからパワースポットの神社って近いの?」

「近いと言えば近いのかな。電車で一駅なんだ」

「えっ? 電車に乗るの? でも一駅だったら電車に乗らなくても歩いて行けるのかな?」

「歩ける距離は距離なんだが、歩いて行くには少し坂道が多いらしいんだ。茉里の靴だと少し辛いだろ?」

部長がそう言って私の足元に視線を向ける。
今日の私の靴はブーティーだ。そこまでヒールは高くないものの、部長の言う通り、坂道を歩き続けるのは少し大変かもしれない。

ブーツだと靴を脱いだり履いたりするのが大変だし、かといって旅行にパンプスで行くのも躊躇われ、脱ぎやすくておしゃれなブーティーを選んでみたけれど、坂道を歩くかもしれないということは全く想定していなかった。

「ごめんね。もう少し歩きやすい靴にすればよかったよね」

「謝ることないよ。俺が熱海に行くとしか言わなかったんだから。それより電車の時間までまだ30分以上あるから、商店街の中を見て、ついでに海を見てから神社に行こうか?」

「うん、それがいいな」

部長と手を繋いでのんびりと商店街の中を歩いていく。

「悠くん、見て見て。温泉饅頭だって。同じようなお店がたくさんあるよ」

「温泉と言えば饅頭だからな。温泉に行けばだいたい売ってるだろ」

「あのお店のお饅頭は茶色だけど、こっちのお店は緑のお饅頭だ。あっ、あそこのお店は白のお饅頭だし。うそっ、ピンクのお饅頭もある!」

お店を覗きつつ視線をきょろきょろ動かしていると、商店街の中を行き交う観光客の人たちが、みんな美味しそうにいろんなものを食べながら歩いている。
つい何を食べているのかを目で追ってしまう。

「悠くん、みんなが食べてるあの茶色い棒みたいなものは何かな?」

「茶色い棒?」

「うん。あっ、あの人が食べてるやつ」

指がさせないので、目で合図をしながら部長に尋ねると、部長は笑いながら答えてくれた。
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