すべてが始まる夜に
一緒にお風呂に入るということを思い出したことで、さっきから心音がドクンドクンと私の身体を刺激する。
温泉に入ることも旅館に泊まることもすごく楽しみだけれど、それだけはどうにか回避したい。
何かいい方法ってないものだろうか……。

熱海駅まで戻って来たところで、部長はスマホを取り出し、何やら検索し始めた。

「茉里、今の時間だったらここからバスに乗ってビーチに行って、そこから神社に向かった方が効率良く回れそうだ。なので電車をやめてバスに乗ろう」

「バスでビーチ? 海ってこと?」

「そう。3時にはまたこの熱海駅に戻って来たいからな。もうすぐバスの出発時間だから行くぞ」

2人でバスに乗り込み、海へと向かう。
ものの5分で海沿いの停留所に到着した。

「わぁ、ほんとに海だ! こんなに近くで海を見るの久しぶり……」

海岸沿いには背の高いヤシの木が立ち並び、目の前には碧い海が見え、ここだけは日本じゃなくてまるで南国のビーチのようだ。

「靴が少し汚れるかもしれないけど、砂浜まで降りてみるか?」

部長の提案に笑顔で大きく頷き、手を繋いで砂浜まで歩いていく。するとそこには綺麗な砂浜が広がっていて、穏やかな波が静かに打ち寄せていた。
天気がいいせいか、水面が太陽の光に反射して遠くまでキラキラと輝いている。

「悠くん、綺麗な海だね。こんな海見てると心が穏やかになるね」

「ほんとだな。心が落ち着くな」

周りを見ると、私たちの他にもカップルや家族連れの方たちが楽しそうに散歩をしている。

「冬なのに結構人が多いね。家族連れよりカップルの方が多いのかな?」

「今日はクリスマスイブだからな。俺たちもだろ?」

優しい表情で微笑んだ部長がさらに強く手を絡ませてきた。また心臓が忙しなく動き始める。
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