すべてが始まる夜に
大楠の周りを一周した私たちは、神社をあとにして最寄り駅へと向かって歩き始めた。

「予定通り3時には熱海駅に到着できそうだな」

部長がスマホで時間を確認しながら、私に検索した電車の時刻表を見せる。

「熱海駅で荷物を出して、そこからは歩いて行けるの?」

「いや、旅館の人に熱海駅に迎えに来てもらうように予約してあるんだ」

スマホを鞄の中にしまった部長は、また私の手を掴み、指を絡めて手を繋いできた。

これからいよいよ旅館に向かうのだ。
ということは、そう、部長と一緒にお風呂に入るという一番難関なレッスンが待ち構えている。
熱海に来ていろんな観光地に目を奪われていたこともあり、私は回避する対策のことをすっかり忘れてここまできてしまった。

「車で行くってことは旅館って遠いの?」

「遠くはないんだが、少し高台にあってな。多分景色はいいと思うぞ」

私たちは電車に乗って一駅の熱海駅へと戻ると、コインロッカーに預けておいた荷物を取り出した。
そして指定された場所で待っていると、目の前に一台の黒い大きな車が停まった。

「松永様でいらっしゃいますか?」

「はい、松永です」

「お待たせいたしました。お荷物はそのままで、足元にお気をつけてどうぞご乗車ください」

後部座席に乗りこむと、運転手さんはドアを閉めてスーツケースをトランクの中に入れ、すぐに運転席に戻り、車を発進させた。
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