すべてが始まる夜に
「熱海へは初めてですか?」

運転手さんがハンドルを握りながら、にこやかに話しかけてくれる。

「いえ、僕は昔、小学生の頃に家族で来たことがあるんですけど、あまり覚えてなくて……。だから今日はほとんど初めての気持ちで観光してました」

「そうでしたか。昔は熱海と言えば会社の慰安旅行ですとか団体旅行が多かったですが、今はいろんなメディアに取り上げてもらっているせいか、お客様のように若いカップルの方ですとか、女性同士のグループですとか、ご家族連れの方も増えてきました。東京からも新幹線ですと近いですからね。観光もできて、食事もおいしくて、温泉にも入れて、熱海は最高です。本日はどうぞ熱海での休暇をお楽しみください」

「ありがとうございます」

とっても気持ち良くお話をしてくれる運転手さんのおかげで、あっという間に高台にある旅館についた。
外観は旅館というより、美術館のような建物だ。

「到着いたしましたので、足元にお気をつけてお降りくださいませ。お荷物は後ほどお持ちしますので、先にチェックインをどうぞ」

ドアを開けてくれた運転手さんにお礼を言って、エントランスの中に入っていくと、ホテルのドアマンのような黒いスーツを着たスタッフの方が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。

真正面に大きなガラス張りの窓があり、その全面には青い空と海が広がっている。

「わぁー、すっごい景色……、きっ、綺麗……」

絶景を目にして感動して言葉が出てこない。

「綺麗な景色だな」

隣で柔らかく微笑む部長の顔を見て、何度も頷く。
温泉に泊まるとしか事前に聞いていなかったので、昔からあるような温泉宿を想像していたけれど、ここだけ見るとリゾートホテルのようだ。
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