すべてが始まる夜に
チェックインを終えてお部屋に案内してもらうと、私はまたそこでも驚いてしまった。

温泉宿のように入り口で靴を脱いで入るのに、部屋の中は和室ではなくここもホテルのような、しかもかなり広い洋室で、セミダブルのベッドが2台と、ソファーとローテーブル、ライティングデスクにミニキッチン、そしてお洒落な間接照明と、どこを見ても全てが素敵で快適な空間だ。

そして穏やかな陽射しが差し込んでいるテラスにはこれまた絶景が広がり、回避したくてたまらないあの露天風呂も見える。

「ここ、洋室のお部屋なんだ」

「もしかして、和室の方が良かったか?」

「ううん、そうじゃなくて。温泉って聞いて私が勝手に和室だと思い込んでたの。こんな素敵な場所だとは思わなかった……」

「気に入った?」

「うん。とっても……。悠くん、私すっごく好き」

満面の笑顔で大きく頷くと、部長は「えっ?」と一瞬目を見開いて真顔で私を見つめた。

「まっ、茉里……今……?」

「んっ? ほんとにすっごく素敵なお部屋だよね。今日1日だけしか過ごせないなんて、なんだかもったいないって思っちゃうよね」

ほんとに見れば見るほど素敵な部屋で、2人で過ごすには十分すぎるほどものすごく広い。
パウダールームを覗くとダブルシンクになっているし、そこからもテラスの露天風呂に入れるようになっている。これは私が想像している以上にかなり料金が高いはずだ。

こんな高そうなところにお金も払わずに連れてきてもらうなんて、部長に対して申し訳なくて仕方ない。
やっぱり自分のぶんはお金を払おうと思い、悠くん──と声をかけようとすると、部長に手を引っ張られ、そのまま抱きしめられた。
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