すべてが始まる夜に
「はい、コーヒー。大丈夫? 寒くないか?」

「大丈夫。悠くん、ありがとう」

コーヒーを受け取り、そのカップで少し冷たくなった手を温める。少し温まったところで、コーヒーを口に運んだ。

「あったかい……。これってドリップコーヒー?」

「カプセルのコーヒーだよ。部屋にもミニキッチンのところに同じのが置いてあっただろ? 最近のこういうコーヒーって、ほんとに美味いよな」

「うん、美味しい」

ほんとになんて幸せな時間なんだろう。
こんな素敵なテラスで、目の前に広がる空と海を見ながら、温かいコーヒーを片手に、ゆったりとした時間が過ごせるなんて。
自分がこうしてこの場所にいることが信じられなくて、まるで夢を見ているようだ。

でも──。

こうして部長と一緒に過ごす時間が幸せに感じる反面、罪悪感のような気持ちも生まれてくる。

こんな高級そうな温泉にまで連れてきてもらっているのに、私は何ひとつお返しができていない。
いつもしてもらうことばかりで、こうしてひとりで喜んで、ひとりではしゃいで、ひとりで楽しんで──。

部長も楽しんでくれてるとは思うけれど、ここに来て時折見せる切なそうな悲しそうな表情が、やっぱり部長に負担をかけてしまっているのではと心配になってしまう。

部長が喜んでくれることはいったい何なんだろう。
さっきの神社で教えてほしいとお願いをしてみたけれど、私も部長が喜んでくれることをしてあげたい。
嬉しそうに笑ってくれる顔が見たい。
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