すべてが始まる夜に
「ねぇ、悠くん、聞いてもいい? 悠くんが嬉しいって思うときはどんなとき?」
「どうしたんだ? 急に」
「あ、えっと、悠くんはどんなときに嬉しいのかなって少し気になって……」
「俺の嬉しいとき? そんなの考えたことないからわからないな……。まあ、仕事が上手くいったときとかかな」
仕事が上手くいったときか……。
そんなことを聞きたかったんじゃないのにな。
もっと、こんなことしてもらえると嬉しいとか、こういうことしてもらいたいとか、そんなことが聞きたいのに──。
「悠くんって、旅行は好きなの?」
「旅行? そうだな、旅行は好きかもしれないな。温泉も好きだし、車で遠出するのも好きだし、海外も好きだしな」
「悠くん、温泉が好きなんだ」
「ああ、九州は温泉が多かったからな。有名どころで言えば、別府や黒川、由布院は聞いたことがあるだろ? その他にも小さな温泉がたくさんあってな。福岡にいたころはよく行ってたよ」
にこりと微笑んでくれる部長の顔がいつもは嬉しいはずなのに、どういうわけか今は悲しくなるくらいすごく胸が痛い。
部長は誰と一緒に温泉に行ったのだろうか。
あの綺麗な彼女と一緒に、こんな風に旅行に行っていたのだろうか。
今まで自分のことでいっぱい過ぎてそんなこと気にしたことなかったけれど、部長と彼女がどんな風に過ごしていたのかと想像してしまうと、部長がどこか遠くに行ってしまったようで、嫌で、辛くて、寂しくて仕方がない。
それに──。
このレッスンが終わったら、今私にしてくれているようなことを、部長は違う女の人にするのだろうか……。
そんなこと全く考えていなかった。想像もしていなかった。ただ、自分に彼氏ができるまでは、部長と一緒にごはんを食べたり、お話したりしたいって勝手にそう思っていた。
だけど部長にだって彼女ができる可能性があるのだ。
私に彼氏ができる可能性より、部長に彼女ができる可能性の方が極めて高い。
レッスンが終わったら、もう部長とは過ごせないってこと──?
急に現実に引き戻され、ものすごくショックを受けている私がいた。
初めて味わう感情にどうしていいかわからず、気を抜くと涙が零れてしまいそうだ。
「どうしたんだ? 急に」
「あ、えっと、悠くんはどんなときに嬉しいのかなって少し気になって……」
「俺の嬉しいとき? そんなの考えたことないからわからないな……。まあ、仕事が上手くいったときとかかな」
仕事が上手くいったときか……。
そんなことを聞きたかったんじゃないのにな。
もっと、こんなことしてもらえると嬉しいとか、こういうことしてもらいたいとか、そんなことが聞きたいのに──。
「悠くんって、旅行は好きなの?」
「旅行? そうだな、旅行は好きかもしれないな。温泉も好きだし、車で遠出するのも好きだし、海外も好きだしな」
「悠くん、温泉が好きなんだ」
「ああ、九州は温泉が多かったからな。有名どころで言えば、別府や黒川、由布院は聞いたことがあるだろ? その他にも小さな温泉がたくさんあってな。福岡にいたころはよく行ってたよ」
にこりと微笑んでくれる部長の顔がいつもは嬉しいはずなのに、どういうわけか今は悲しくなるくらいすごく胸が痛い。
部長は誰と一緒に温泉に行ったのだろうか。
あの綺麗な彼女と一緒に、こんな風に旅行に行っていたのだろうか。
今まで自分のことでいっぱい過ぎてそんなこと気にしたことなかったけれど、部長と彼女がどんな風に過ごしていたのかと想像してしまうと、部長がどこか遠くに行ってしまったようで、嫌で、辛くて、寂しくて仕方がない。
それに──。
このレッスンが終わったら、今私にしてくれているようなことを、部長は違う女の人にするのだろうか……。
そんなこと全く考えていなかった。想像もしていなかった。ただ、自分に彼氏ができるまでは、部長と一緒にごはんを食べたり、お話したりしたいって勝手にそう思っていた。
だけど部長にだって彼女ができる可能性があるのだ。
私に彼氏ができる可能性より、部長に彼女ができる可能性の方が極めて高い。
レッスンが終わったら、もう部長とは過ごせないってこと──?
急に現実に引き戻され、ものすごくショックを受けている私がいた。
初めて味わう感情にどうしていいかわからず、気を抜くと涙が零れてしまいそうだ。