すべてが始まる夜に
「彼女じゃないんですか?」

「全く違う。それと宮川ごめん。やっぱり二次会はキャンセルしてもいいか?」

宮川が驚いた顔を俺に向けた。

「えっ? キャンセルですか?」

「ああ。俺の彼女が今不安になってるだろうから、すぐに安心させてやりたくてな。茉里、帰るぞ」

俺は茉里の手首を掴んで自分の方へ引き寄せ、しっかりと手を握った。3人の目が瞬く間にまんまるになり、驚いた表情をして俺たちを見る。

「みんな悪いな。茉里も二次会キャンセルさせてもらうな。あとこのネクタイの彼女は茉里だ。じゃあみんな、また月曜日な」

俺はそう告げると、茉里の手を引いて駅に向かって歩き始めた。

茉里の手に自分の指を絡ませて、逃がさないようにしっかりと繋いだまま、駅へ向かって歩いていく。
一言も口にすることなく歩いていた茉里は、宮川の話を聞いて俺のことが嫌になったのか、それとも俺との関係を他の人に知られたくないのか、繫がれた手を解こうと指を広げてきた。

「ねぇ、悠くん……、誰かに見られちゃいけないから、上野に着くまでは手を離していた方がいいと思うの。だから手を離すね……」

それが本当の理由なのかわからず、解くのを阻止するように、さらにぎゅっと手を握りしめる。

「誰かに見られて困ることはないだろ? 俺たち付き合ってるんだし、どうせ宮川たちにもバレてしまったんだ。今さら隠す必要もないだろ?」

焦りと腹立だしさと不安にさせた悔しさで少し口調が強くなってしまう。

「茉里、俺はそんなことより早くお前の中の不安を全て取り除きたいんだ。だから何を言っても俺はこの手を離さないからな」

俺はそう言うと、マンションに着くまで一度も茉里の手を離すことはしなかった。
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