すべてが始まる夜に
「やだ。しない」

「なんでだよ。夜ごはんまでまだ時間があるだろ?」

「だって悠くん、夜もするもん」

「そんなの当たり前じゃないか。夜だけじゃなくて、風呂も一緒に入ったら多分するだろうし、朝はもちろんするに決まってるだろ?」

「えっ?」

「なんだよ、その顔は……。嫌なのかよ……」

「嫌じゃないよ……。でも、あんまりやり過ぎたら飽きて浮気するって……」

私の言葉に、部長が「はぁ?」と怪訝そうな顔を向けた。

「やり過ぎたら飽きて浮気する? 誰がそんなことを言ったんだよ」

葉子と若菜ちゃん──とも言えず黙っていると、そのままベッドの上に座らされた。

「あのなぁ、確かに絶対に飽きないとは言わない。毎日していたカップルが、週に1回になり、月に2回になり、年を取ればそうやって減っていくだろう。それは仕方のないことだと思う」

仕方のないことだと言われ、部長の愛情が薄らいだように感じて、胸の奥が不安で苦しくなる。

「でもな、だからと言って茉里は他のヤツとやりたいと思うか?」

「思わない。私は悠くんがいい……。悠くんじゃないとやだ……」

「俺も同じだよ。これから年を重ねると回数は少なくなるかもしれないけど、でも俺は茉里としたいし、茉里がいいんだ」

俺は茉里としたいし、茉里がいい──。
部長のストレートな言葉が、不安で苦しく感じていた胸の奥にストンと入り込み、涙が零れてきた。

「ほんとはさ、夜、ロマンチックな雰囲気の中で伝えようと思ったんだけど……」

優しい表情をして口元を緩めた部長が、鞄の中から小さな箱を取り出した。
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