愛しの鳥籠〜籠のカギ篇〜
ある日の朝。
わたしの朝の世話を済ませたユキが出勤の準備をし始めて、わたしはその様子をいつも通りニコニコと眺めていた。
ユキはそんなわたしの唇に軽くキスをするとそのまま家を出ようとして。
それが、あまりにも衝撃的な光景で。
わたしは「ユキッ!!」と叫んで震えながらイヤイヤと首を横に振る。
だって、ユキが、ユキの手には、
『鍵』が握られていなかったからーー。
その事実が怖くて怖くて、わたしの目からは大粒の涙がボタボタ溢れては床へと落ちてゆく。
ユキは、そんなわたしを見て困ったように笑いながら
「ラン。ランにもうコレは必要ないよ。こんなものがなくたって、ランは僕から離れないだろう?」
号泣するわたしの頭を優しく撫でた。
「…嫌なのっ」
声が震える。
「ラン?」
「『普通』は、嫌なのっ」
一瞬ユキの眼が驚きのあまり見開いて、その後で
「大丈夫だよ、ラン。鍵がなくなったって僕達はもう充分『異常』だよ」
ふわりとわたしを抱きしめた。