怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
それから今まで悠正さんはそのことについて触れてこない。
昨日の言葉なんてまるでなかったかのような自然な態度で私に話し掛けてくる。だから余計にあの言葉の真意を尋ねられないし、このまま触れない方がいいのかもしれない……。
「優月?」
頭上から悠正さんの声が落ちてきた。
「ぼんやりとしてどうした?」
「すみません。なんでもないです」
そう答えた私を所長が心配そうな表情で見つめる。
「どうしんだい、優月さん。体調でも優れないのかな」
「いえ、そうではないです。元気です」
無理やり口角を上げて笑顔を作ると、それにつられたのか所長もにっこりと微笑んだ。
すると、壁に背を預けて立っていた悠正さんがいつの間にか私の隣に立ち、彼の手が私の肩にそっと回される。
突然触れられたことに思わずドキッと心臓が跳ね、体が固まってしまった。
「父さんの元気な顔も見られたし、俺と優月はそろそろ帰るよ」
「ああ。今日は来てくれてありがとう、悠正。それから優月さんも」
所長の視線が悠正さんと私を交互に見つめる。
「それじゃあ父さんまた来るから。行こう、優月」
私の背中をぽんと優しく叩き、悠正さんが病室の扉に向かって歩いていく。
私も慌てて椅子から立ち上がり、所長に頭を下げてから悠正さんのあとを追いかけて病室を出た。