怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「――優月、待て。目を閉じるな」
そんなことを言われても、自然と瞼が落ちてきてしまう。それでも眠ってはだめだと必死に耐える。
私は、悠正さんと話し合うためにマンションを飛び出てきたはずなのに。
彼の気持ちがどこにあるのかを知りたかった。もしも本当に私を想ってくれているなら、私からも自分の気持ちを伝えたいと思った。
でも、さっきの光景で気付いてしまった。
悠正さんの心にいるのは元恋人だ。包丁を手にした男性から自分の身を呈して彼女を守る悠正さんの姿に嫌でもそれを思い知った。そこまで好きなんだ……。
「悠正さん、私……」
それでもどうか私の気持ちだけ聞いてほしい。
振り絞るようにだした声はとても小さく震えていた。
懸命に私の応急処置を続けている悠正さんのスーツの袖を、怪我をしていない右手でぎゅっと掴む。
「……あなたが好きです」
伝えたいことはもっとあったはずなのに今はその言葉だけが精一杯だった。次第にぼんやりとしていく意識の中で、悠正さんが大きく目を見開いたのがわかった。
こんなときに言うべき言葉じゃないのかもしれない。それでも今、伝えたかった。
「優月。俺だってきみを――」
悠正さんがそう口を開いたけれど、駆け寄ってきた救急隊員たちによって続きの言葉は遮られてしまった。