怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
すると、電話の向こうで母の動揺している様子が伝わってきた。
《彼氏って……。優月、あなたなにを言っているの。彼氏がいるなんて、そんなことひと言も……》
「内緒にしていたに決まってるでしょ。どうせお母さんには反対されるから」
《当たり前でしょう。あなたはお母さんの決めた相手と結婚するの。彼氏とは別れなさい》
「嫌よ。私、本当にお見合いはしたくないの。わかってよ、お母さん」
《優月、いい加減にしなさいっ》
母の叫び声が私の耳にキンと響いた。
どうやら母は納得してくれなかったらしい。
彼氏とは別れてお見合いをしなさい。電話の向こうからしつこい説得が続き、これ以上母と話をするのが嫌になった私はとうとう端末を耳から離した。そのまま通話を切ろうとした、そのとき――。
隣からすっと伸びてきた手によって携帯端末を奪い取られてしまう。
え?と思い振り返ると、そこにはなぜか隠岐先生の姿があった。
「もしもし、お電話代わりました。優月さんと同じ職場に勤務しています弁護士の隠岐と申します」
右手に私から奪った端末を持ち、左手をスーツのズボンのポケットに軽く突っ込んでいる隠岐先生が平然とした様子で私の母と言葉を交わしている。