怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「隠岐先生!」
慌てた私は隠岐先生に奪われた端末を取り返すべく手を伸ばすが、それを交わすように彼がくるんと素早く背を向けてしまい、私の手は虚しく空を切った。
次の瞬間、隠岐先生が驚くべきことを口にする。
「ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。優月さんとは結婚を前提にお付き合いさせていただいております」
お、隠岐先生!?
突然なにを言い出すの?
私がぽかんとしている間にも隠岐先生と母のやり取りは続いている。電話の向こうで母がなにを喋っているのかは私にはわからないものの、隠岐先生は物腰柔らかな口調で淡々と話を進めていた。
「――わかりました。では、改めてご挨拶に伺います」
そこで会話は終了したらしい。隠岐先生が携帯端末を耳から離し、ひと息ついてから振り向いて私ににこりと微笑みかける。
「これで終了。無事に解決……できるかどうかはこれからかな」
私は隠岐先生から端末を受け取ると、それをぎゅっと握りしめる。
「隠岐先生。どうして……」
私の彼氏だなんて嘘をついたのだろう。