怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~

 あの日、鏑木さんの言葉の途中で悠正さんが私の耳を塞いだのも、鏑木さんの嘘を私に聞かせないためだったのかもしれない。


「でも、ごめん。しっかりと優月に説明をしておけばよかった。関わるな、忘れろ。それだけしか伝えなかった俺も悪いな」

「優月さん。私からも謝罪させてください」


 悠正さんの言葉のあとで雪平さんが声を上げる。


「壮が迷惑をかけて本当にごめんなさい。あの人は私の彼氏なんだけど、大学の頃から隠岐君のことがどうも気に入らないみたいなの。自分よりも優秀な隠岐君に勝手にライバル心を抱いているのよ」


 それを聞いて、悠正さんと鏑木さんの仲があまりよろしくない事情がようやくわかった。鏑木さんが一方的に悠正さんのことをよく思っていないようだ。


「弁護士になってからも二度ほど同じ訴訟で対決しているんだけど、どちらも隠岐君にこてんぱんにやられたことがショックで、嫌がらせがさらに加速したのね。本当にごめんなさい」

「そうだったんですね」


 鏑木さんの彼女がまさか雪平さんだったことにも驚いたけれど、それよりも悠正さんと雪平さんが恋人ではなかった事実に安堵する。

 再会してむかしの恋に火がついたというのは鏑木さんの嘘だったんだ。

< 219 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop