怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~


《いや、四時以降なら大丈夫。せっかく電話をくれたんだから、なるべく今日中に話を聞いてあげたい。四時以降でもよければまたかけ直してもらうようその方に伝えて》

「わかりました」


 隠岐先生との通話を切ると、その件を女性に伝えた。どうしても隠岐先生に話を聞いてもらいたいらしく、四時以降でも構わないからまた掛け直すと言って女性は電話を切った。


「また隠岐先生への依頼? 今日はこれでもう三件目よ」


 受話器を戻したところで隣の席の同僚――菊池(きくち)さんの声が聞こえた。彼女は、私よりも五つ年上の先輩事務員だ。

 すると、今度は向かいの席に座る同僚――戸田(とだ)さんが口を開く。


「隠岐先生はいったい何件の依頼を受け持つつもりですかね。ご指名でくる依頼も多いし、さすがうちの事務所の看板弁護士。人気者だなぁ」


 そう話す彼女は今年の春に新卒で入ってきたばかりの新人事務員。戸田さんが私と菊池さんを交互に見てから「そういえば」と言葉を続けた。


「午前中に見えた依頼者さん知ってます? あの方、泣きながら隠岐先生にずっと感謝の言葉を口にして帰られていきましたよ」

「そんなことあったの? 私それ知らないわ。優月ちゃん知ってる?」


 菊池さんに尋ねられて、私は「はい」とうなずいた。

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