怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「隠岐先生、前に話していたんです。どの事件や裁判にもその人の人生がかかっている。だから依頼された案件に大きいも小さいも、難しいも簡単もない。たったひとりの依頼者さんのために全力を尽くすのみだって。それを聞いたとき、やっぱり隠岐先生はとても素敵な弁護士さんだなって思いました」
気が付くと同僚ふたりの前で私はそんなことを口にしていた。すると、菊池さんが私の肩にポンと優しく手を置いて「優月ちゃん」と声を掛ける。
「あなた、隠岐先生のことが好きなのね」
「へ?」
そういえば昨日も瑠奈から同じようなことを言われた気がする。あのときもつい隠岐先生のことを熱く語ってしまい勘違いされてしまったけれど、今回もそれと同じだろうか。
そうだとしたら菊池さんの誤解を早く解かないと。そう思って慌てて口を開こうとしたものの、向かいの席の戸田さんの方が一歩早かった。
「えっ、優月さん。まさか隠岐先生狙いだったんですか。うー、ライバル増えた」
戸田さんが頭を抱えてしまった。そんな彼女に向かって菊池さんが呆れたような視線を向ける。