怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「あ、あの。私、別に隠岐先生のこと好きなわけではないし、いい雰囲気とかそういうのでもないので。慰労会のあとも隠岐先生のお気に入りのバーに連れて行ってもらっただけで……」
「えっ! それって優月さん、隠岐先生に口説かれてません? バーといえば男性が女性を口説き落とすときに使う場所ってイメージが私にはあるんですけど」
そうなの? バーってそういうところなの?
でも私、隠岐先生に口説かれた覚えがない……というより、バーでのことをなにも思い出せないのだけれど。
すると、今度は菊池さんがどこか納得したように「なるほどね」と頷いている。
「じゃあやっぱりそうなんだ。私、なんとなく前から隠岐先生って優月ちゃんのこと狙ってる気がしてたのよね。私たちと話すときと比べると、優月ちゃんにだけ微妙に態度が違うというか」
「それって両想いじゃないですか! よかったですね、優月さん」
「い、いえ。私、別に隠岐先生のこと好きじゃないですから。そういう風に見たことは一度もないので」
勘違いを続ける同僚ふたりの誤解を解くべく私は言葉を続ける。
「バーに行きましたけど、なにもなかったので」
というのは大嘘だけど、まさか隠岐先生と一夜を共にしたと言えるわけないし、絶対に言ってはいけない。
そのあとも私は誤解を続ける同僚ふたりに、隠岐先生とはなにもないのだと必死に説明したものの、はたして信じてもらえたのかどうかはわからない。