怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
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午後七時を過ぎると事務所の営業時間は終了する。
私の一日の業務も終わり、同僚事務員たちに今日中に終わらさなければならない業務がないかを確認。あれば手伝うし、なければ帰宅する。
今日は誰も急ぎの仕事を抱えていないようなので、私は帰りの支度を始めた。
「お疲れ様でした」
そう声を掛けて事務員フロアを出たときだった。
「あ、小野坂さん」
誰かに名前を呼ばれて振り返ると、隠岐先生の個室の扉が開いていた。そこに立っている彼が「ちょっと来て」と私を手招きしている。
電話での相談はもう終わったのだろうか。
裁判所と事故現場の調査に出ていた隠岐先生が事務所に戻ってきたのは午後四時を少し過ぎた頃。それから三十分ほどして隠岐先生ご指名で相談を依頼してきた年配女性から再び電話が掛かってきたので、すぐに隠岐先生に取り次いだ。
おそらく電話でかいつまんだ相談内容を聞いたうえで依頼を受けるのかを決めるのだと思う。でも、おそらく隠岐先生のことだから自分の専門外のこと以外なら受けるはず。
もしかして、そのことで追加の仕事を頼まれるのだろうか。