怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
結局よくわからないまま、気が付くと隠岐先生が所長室の扉を開けてしまった。「失礼します」とひと声掛けて入室した彼のあとに仕方なく私も続く。
この部屋の主である所長は執務机のチェアに背を預けゆったりとした姿勢で腰を下ろしていた。
隠岐先生と私の姿を見るなり穏やかな笑顔を浮かべ、応接セットのソファに座るよう促す。そこに隠岐先生と並んで腰を下ろすと、テーブルを挟んだ向かいのソファに所長も座った。
私のような事務員が所長室に入る機会はそれほど多くはない。なので、こうして所長室のソファに腰を下ろし、所長と対面しているこの状況に緊張してしまい、自然と背筋がピンと伸びる。
それに、私はまだ隠岐先生になぜここへ連れてこられたのかの説明を詳しくされていない。
「どうした悠正。事務の小野坂さんを連れて私の部屋を訪れるとは。さては、仕事の話ではないな」
所長は、隠岐先生と私を交互にみると意味ありげに微笑む。
「もしや昨日の話。相手は小野坂さんか」
「さすが所長……いや、父さんだ。勘が鋭い」
「いや、昨日あんな話を突然されたあとでお前が女性を連れて私のところに来たんだ。すぐに察しがつく」
「紹介するって約束したからな」