怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
そう話す所長の声が震えている。よく見ると目にはうっすらと涙が溜まっていて、指でそれをぬぐった所長の視線が私に向けられた。
「小野坂さん。きみの普段の仕事振りを私はとても評価しているよ。事務員の中ではまだ若手だけれど真摯に仕事と向き合っている姿勢はとても素晴らしいし、事務所を訪れる依頼者に対しても丁寧な対応ができる女性だ。そんなきみが息子を結婚相手に選んでくれて、私は本当にうれしい。ありがとう、小野坂さん」
「い、いえ。あの、所長……」
話しながらとうとう所長は涙をこらえきれなくなったようで、滝のようにぽろぽろと泣き始めてしまった。
その姿に動揺する私とは違い、なぜか隠岐先生は楽しそうに笑っている。
「泣くなよ、父さん。みっともないぞ」
「仕方がないだろう。父さんは本当にうれしいんだ。悠正がついに結婚するんだからな」
「所長。よろしければこちらをお使いください」
こぼれる涙をワイシャツの袖で拭っている所長を見て、私は自身のハンカチを渡した。それを受け取った所長の目からさらに涙が溢れてくる。
「ありがとう小野坂さん。きみは本当に優しい女性だ。小野坂さんのような子が私の娘になるのだと思うとうれしくてうれしくて」
「あっ、いえ、私はその……」