怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「悠正。小野坂さんを大切にするんだぞ。そして、幸せな家庭を築きなさい」
私のハンカチで目元を拭いながら所長は隠岐先生に向けて力強く告げる。
どうしよう。この展開に私はもうどんな言葉を発していいのかわからず途方に暮れる。状況がうまく呑み込めない。
とりあえずわかっているのは隠岐先生が私を結婚相手として所長に報告をしていることだけど、もちろん私たちに結婚の予定はない。
なぜ隠岐先生はそんな嘘をついたのだろう……。
そこまで考えてハッと気が付く。そういえば、私もつい先日同じことを母の前でした。そのおかげでお見合いを回避することができたんだ。
もしかして隠岐先生も私と似たような状況にあるのだろうか。ご両親から不本意なお見合いをさせられそうで、それを断ろうとしているのかもしれない。
そうだと確信できたわけではないけれど、隠岐先生には随分と助けてもらったので今度は私が彼の味方になってあげる番なのかもしれない。
とりあえず今は隠岐先生の“結婚相手„になりきろう。
私は、所長室に入室する前に言われた言葉を思い出し、にっこりとした笑顔を心掛けるべくそっと口角を上げた。