怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「さっきの本当によかったんですか。いくらお見合いが嫌だからって私と結婚するなんて嘘をご病気の所長の前でするのはよくないと思います」
「ん? 俺、小野坂さんに見合いをするなんて話をしたか」
「えっ、しないんですか?」
「その予定はないな」
てっきり私と同じでお見合いが嫌だから私と結婚するなんて嘘をついたのだと思った。でも、どうやらそうではないらしい。それならなおさら、どうしてあんな嘘を?
「それに、俺は嘘をついていないよ。父にもそうだし、小野坂さんのお母さんにも。どちらも真実を前提として話したつもりだ」
真実を前提?
「えっと……。それはいったいどういう意味でしょうか」
隠岐先生の言いたいことが理解できずに尋ねた私に彼がにっこりと微笑みかける。
「つまり、俺と小野坂さんが本当に結婚すればお互いの親に嘘なんてついていないことになるだろ」
「なるほど……」
その理屈からすると確かにそうなのかもしれない。ふむふむと納得しそうになったけれど、すぐにハッと我に返る。
「えっ⁉ でも、私たち結婚しませんよね」
「するよ」
はっきりとそう答えた隠岐先生の目がじっと私を見据えた。