怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「小野坂さんは俺と結婚するんだ」
私が隠岐先生と結婚!?
「いえいえいえいえいえ、結婚しませんよ」
私は顔の前で両手をぶんぶんと大きく横に振った。
「この前は私のお見合いを断るために隠岐先生は私の恋人のふりをしてくださったんですよね。私もさっきは隠岐先生が不本意なお見合いを迫られていると思ったから黙って結婚相手のふりをしていただけで……。そういえば隠岐先生はどうして所長に私と結婚するなんて嘘をついたんですか?」
私と同じでお見合い断るためだと思っていたけれど、そうでないなら理由はなんだろう。
「俺? 俺は、病気の父を安心させたいからかな」
そう切り出した隠岐先生の視線が不意に下に落ちた。
「さっきも言ったけど父は病気だ。本当なら治療に専念しないといけないけど、事務所のことが気になるようで入院をずっと拒んでる。事務所は俺が引き継ぐと言っても、未だに独身でふらふらしている俺に任せるのは心配だと言われてさ」
俯きながら隠岐先生が苦笑を漏らす。
「しっかりと身を固めたら事務所を任せられると言われたから、すぐにでも結婚したいと思った。そうしたら父も心置きなく治療に専念できるだろ」
それで隠岐先生は私に結婚しようと言ったんだ。
なんとなく彼の抱えている事情が理解できたものの、結婚に同意はできない。