それは夕立とともに
 失恋が決定的となった今、いっそのこと雨に打たれて泣いてしまいたかった。

 そ、と彼女のか細い声が聞こえた時。突然目の端に光源を感じた。

「ひゃッ…!」と彼女が小さく叫ぶ。

 ああ、雷かと俺は窓の外を一瞥するだけだが、彼女はこれ以上ないほどに怯え、その小さな体を更に縮こめた。

 遠くで鳴る地響きに両耳を塞ぎ、本気で怖がっていた。

「いやぁあ…ッ」

 怯える彼女には申し訳ないが、胸の奥が熱く疼いた。可愛くてたまらない、と。雄の本能が全身をビシビシと支配していた。

「だ、大丈夫? 栞里ちゃん」

 少しだけ彼女に近付き、手を伸ばした。

 すると彼女は小さな子供みたいに俺の懐に入り、しがみついてきた。

「ーーっし」

「ごめ、お願いだからちょっとだけ、このままでいさせて……っ」

 俺は棒立ちで固まっていた。

 好きな子のお願いならなんでも聞くつもりだが、この状況はどうするべきか。

 ーーああ、ヤバいヤバい。

 心音が半端なくうるさい。

 当たり前だ。

 一生手が届きそうにない栞里ちゃんが俺の胸の中にいるんだ、興奮して当たり前なんだ。

 このまま抱きしめてしまいたい衝動を抑え、ただ呼吸をする事だけに集中する。
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