それは夕立とともに
 生殺しとはこの事だ。

 夕立とセットになった雷が止むまで、俺はひたすらに滝行のイメトレを行った。

 ーー煩悩退散、煩悩退散……。

 雷雲の唸りが静かになった頃、顔を上げた彼女と目が合った。羞恥をはらんだ涙目で俺をしんみりと見上げてくる。

 ーーくそッ、なんでそんなにいちいち可愛いんだ!

「ごめんなさい」

 栞里ちゃんは大人しく俯き、俺から身を引いた。また彼女と距離が開く。

 ふと足元に白い何かが落ちているのに気が付いた。彼女が鞄のポケットに押し込んだはずのスマホだった。

「……え、あっ!」

 俺の手がそれを拾い上げるのと彼女が声を上げたのは同時だった。

「割れてないかな」

 落下のショックで液晶に被せていた蓋が開いていたので、心配になった。

 ーーえ……?

 あらかじめ液晶の上に重ねていたのだろうか、一枚のメモ書きが目に入った。


【うすい けんと】

【332415】


 ーーこれって……。

 やはり恋愛ジンクスを試すためのメモ書きだが、問題はそこじゃない。

 平仮名で書かれた名前を勝手に漢字変換する。

ーー碓井(うすい) 賢人(けんと)って……、俺の事だよな?

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