10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
彼女はいつの間にか大きく成長していた。
と言ってもまだ中学生。本当なら母親の死なんて涙が枯れるくらいに泣くのだろうけど、彼女は、葬儀では涙一つ見せなかった。
僕はひとりぼっちになってしまった彼女のことが、気になって仕方なかったんだ。
葬儀が一通り終わると、大きな座敷で、親戚たちが故人をしのぶのもそこそこに、果歩ちゃんの行く末を心配……いや、自分たちの心配をし始めた。
「あの子、誰が引き取るんだ。うちは無理だぞ」
「うちも無理よ。もうすぐ大学受験の娘がいるの」
「うちだって同じだよ! うちは三人もいるんだ!」
「……よければ、うちで面倒を見させていただけませんか」
全体的に押し付け合うような空気の中、大和の父親がぴんと張った声で言った。
その頃はもう大和も一人暮らしをしていて、成井家は広い屋敷に夫婦二人だけ。和世さんは二人目を望んでいたけど、できなかったと聞いたことがある。
その言葉に、父親の横にいた和世さんも優しい顔で微笑んで頷いていた。
そもそも果歩ちゃんは成井家の両親に懐いていたし、実際、果歩ちゃんはその大和の父親の言葉にだけはピクリと反応して顔を上げた。
しかし、それに待ったをかけたのは、風格のある高齢男性だった。どこかで見たことがあると思ったら、成井総合病院の隣県にある医師会の副会長だ。
「成井くんちは遠縁すぎるだろ。世間体もあるし、あまり遠縁の親戚が引き取ると言うのはどうなんだ」
ぴしゃりと響いた言葉に場が静まり返る。その人は父親の祖父だったようで、力も発言力もある。
みんなそこには反論しにくいように言葉に詰まった。