10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
その沈黙を破ったのは、僕や大和より年上の親戚の男。
手入れのされていない髪、剃られていない無精髭、緩んだネクタイにだらしない服装。親戚の葬儀に来るにはあまりにも雰囲気が悪い男だった。
そんな男は、果歩ちゃんを下から上まで舐めまわすように見る。
「うちで引き取ろうか? 俺は独り身だし、幸いうちは部屋数もお金もある。成井さんとこより血の繋がりも近い」
「と言っても、翁介くん……それは……」
「果歩ちゃんなら大人しそうだし、俺が全部面倒見るよ」
「そんな犬猫じゃあるまいし」
「決まり。果歩ちゃん、一緒に帰ろう」
翁介、と呼ばれた男がなれなれしく果歩ちゃんの肩に触れる。
そのままするりと肩を撫でたのが分かって、果歩ちゃんの肩が震えると、それまで静かにその場に座っていた大和がその手を払いのけた。
しかし、当の果歩ちゃんはと言うと、「はい」とただ頷いて、まだ大人たちがもめている中、席を外してしまう。
大和も気にしていたが、その場から離れられないような状態だったので、僕に目配せをした。
僕は僕で、そんなことされなくても彼女の様子が気になって、いつのまにか彼女を追いかけていた。