10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「こんなとこじゃなにも見えないのに……」

 その間にも果歩ちゃんは足を前に進めていたらしく、結構な距離を進んだ後に立ち止まり、空を見上げてそんなことを呟いていた。

 その背中があまりにも小さくて、僕はただ息が詰まりそうになる。

「果歩ちゃん! なんでこんなとこにいるの! 心配するでしょ!」

 果歩ちゃんはこちらを振り向くと、僕のことを覚えているのかいないのか……よくわからないまま、頭を下げた。

「ごめんなさい。星、見えないかなぁって思って……」

 警戒心のまるでない果歩ちゃんが力なく笑い、僕はそれにも心が痛む。

「星?」
「うん。死んだらあそこに行くんでしょ。お母さんがよく言ってた。嘘だとは思うんだけど……でも……」

 『お母さんはあそこにいるよ』
 自分も昔、父に言われた言葉だ。

 ただのお伽話のような話。でも、自分だって大人になって今も、そんな言葉を嘘だとわかってても心の片隅で信じてる。
 きっと果歩ちゃんもそうなんだろう。そんなふうに思えた。

(僕らは、同じだ)

 そう思うと、思わず彼女のまだ大人になり切れていない手を取った。

「そうだ、いいところがあるよ。ついておいで」

 そして彼女を連れて行ったのが、プラネタリウムだった。
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