10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「人工でも本物と同じ効果があるんだよ」
プラネタリウムは幸い最後の上映時間が始まる前。チケットを買って果歩ちゃんを席に座らせて、僕がそう言って笑うと、果歩ちゃんはすぐに眉をひそめて、ウソ、と否定した。
そう。彼女の言う通り、もちろん嘘だ。
でも、この嘘だけは……神様に、亡くなった果歩ちゃんの両親と僕の母親に、許してもらえないだろうか。
僕はできるだけ飄々とした顔で、
「本当だよ? だって、僕の母も、果歩ちゃんのお父さんとお母さんと一緒にあそこにいる」
そう言って人工の空を指さす。
今思えば、何とか表情を崩さないままついた初めての嘘だった。
「だから僕たちも一緒。もし果歩ちゃんが寂しいと思ったとき、隣に誰もいなかったら言って。隣にいてあげる」
「……ありがとう」
果歩ちゃんはそう言ってはじめて笑った。その笑顔にドキリとする。
ただ、その時は彼女が恋愛感情として好きだとかそういうわけではなく、僕より辛い境遇の、頼りない彼女をなんとか慰めたい一心だった。
それがそんな嘘になったのだ。
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