花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!

冷酷に言い放つと同時に、喉を掻き切るかのように指先で線を引く。すると、冒険者の男は目を見開き、乾いた咳をしながら慌てて後ずさった。


「お前、何をする!」


喉を両手で押さえて悶え苦しむ男の元へ仲間が駆け寄り、外套を纏ったふたりに大声で抗議する。

しかし、眼鏡の彼に「殺る気ですか?」とジロリ睨みつけられ、ほぼ同時に震え上がった。

仲間の女性が「もうなんなのよ!」と文句を言いつつ、16000エネルの入った貨幣袋を素早く回収すると、まだ咳き込み続けている男性を支えている仲間と一緒に逃げ出した。


「……ひどく咳き込んでいたけれど、回復薬をあげるべきだったかしら」

「問題ない。明日には喉の痛みも引いている」


三人の後ろ姿を見つめつつ顎に手をあて呟いたエミリーになんてことない口調で答えると、男は目深にかぶっていたフードのふちを掴み、己の顔が見えるくらいまで持ち上げた。


「久しぶりだな、エミリー」

「えぇ本当に久しぶりね、フィデル。元気だった?」

「あぁ。エミリーも元気そうだな」


黒髪碧眼、陶器のように綺麗な白い肌。

フィデルという名の、甘く整った顔立ちをした滅多にお目にかかれないレベルの美男子である彼は、エミリーの質問に微笑みながら頷いた後、周囲を気にしつつ再びフードで顔を隠してしまう。

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