彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
そんな言葉が喉まで出かかって、飲み込む。


相手は先生だ。


これ以上自分のわがままをぶつけるわけにはいかない。


「私のこと全部、最初から知っていたんですよね?」


代わりに質問した自分の声はひどく震えていた。


佳太くんは無言で頷く。


やっぱりそうだったんだ。


なにも知らずにただ舞い上がっていたのは私だけ。


途端に自分の今までの言動がおかしく感じられて口元が緩んでしまった。


「矢沢さん?」


「安心してください。私、またA組に行きますから、先生の評価は落ちません」


「それはっ」


佳太くんが慌ててなにかを言おうとする。


だけどもうなにも聞きたくなかった。


これ以上、私を振り回さないでほしかった。


「さようなら、教育実習の先生」


私は小さな声でそう言うと、握られている手をそっとほどいて歩き出したのだった。
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