彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない
「松茂さんは、知奈の病気のこともちゃんと知っているのよね?」


さっきからムスッとした表情を崩さないお父さんに変わり、お母さんが横からフォローしてくれた。


「はい、もちろんです」


背筋を伸ばして頷く佳太くん。


「教師なら知っていて当然だ」


お父さんはやっぱり厳しくて、佳太くんは萎縮したような雰囲気になってしまった。


「お父さん今日はこのくらいでいいんじゃないですか? そろそろ出る準備をしないと」


お母さんに言われて時計を見ると、すでに出勤時間を5分過ぎている。これ以上のんびりしていると本当に遅刻してしまう。


お父さんは渋々立ち上がり、同時に佳太くんも立ち上がった。


「後日またちゃんとご挨拶に伺いますので」


カチカチに緊張しながらお父さんを見送った後、私も佳太くんと一緒に家を出た。


佳太くんは家を出た瞬間大きく息を吐き出して額に滲んだ汗を手の甲で拭った。


「大丈夫ですか?」


私はハンカチを差し出して聞く。


緊張のせいか、佳太くんの顔色は少し悪いようだ。


佳太くんは薄ピンク色のハンカチで汗を拭うと「やっぱりこういうのって緊張するね」と、笑ってみせた。


私もいつか彼の家にお邪魔するときがあったら、同じように緊張するのかもしれない。
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