白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

18. 見せずに隠していたもの

 機動力を優先としているのか。先程まで乗っていた馬車と比べると、かなり小型で内部も狭い。素っ気ないと表現してもいいほどに内装は簡素なもので、窓もなかった。

 そのせいだろうか。四方から押し潰すような圧迫感があるような気がする。

(まるで、小さな監獄みたい)

 でもその認識は(あなが)ち間違いではないのだろう。

 少なくとも彼らにとってのロゼリエッタは重罪人に他ならない。それでも馬車を用意してくれただけ、丁重な扱いを受けているのかもしれなかった。


 一列しかないシートはロゼリエッタと騎士が乗っただけで余裕がなくなっている。甲冑を纏うでもない細身の騎士とでもこの様子では、いかに小さいのか良く分かるというものだ。あるいは本来は一人用だと考えた方がまだ説明がつく。


 クロードともこんなに近く隣り合って座ったこともない。ひどく密接した距離に、ロゼリエッタは思わず身を縮こませた。

 やはり飾り気はないけれど、座り心地は悪くないのは幸いだと言って良いのだろうか。上質の皮を使っているのか白い光沢を放つ表面は柔らかくなめらかで、肌触りも良かった。


 騎士がドアを閉めると、彼の言いつけ通りに馬車が走り出した。

 思っていたよりスピードが速い。そして同じだけの速度でロゼリエッタの心に不安が広がりはじめて行く。

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