白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 ロゼリエッタは顔を上げた。

 やはり夜会では目の色を見せたくなかったのか、あの時は不自然なまでに長かった前髪も目が見える程度には切り揃えられている。

 勇気を出し、その目をのぞきこんだ。仮面越しに見つめる緑色の目は良く知るものと同じはずなのに、見たことがない色に見えた。


 結局、耐えきれずに顔を背ける。

「どうして、そんな嘘を仰るのですか。だって」

 今、私の目の前には。


 言葉を最後まで告げることは叶わなかった。

 騎士の手が伸ばされ、反射的に身を竦ませる。優しく触れてくれることを願い続けていたその手が、何の感情も読み取れない動作で髪飾りを外した。

 途端に緩やかな巻き髪がはらはらと頬を滑り落ちて行く。騎士はマントを外して髪飾りを包み、ロゼリエッタの手が届かないよう自らの身体の向こうに置いた。

「何故、勝手に外したのですか」

「髪飾りと言えど武器となりうるものです。今のあなたの手元に置くことは出来ません」

 ロゼリエッタは実際、馬車が襲われた時に髪飾りを武器に抵抗することも考えており、クロードが今その考えに至ることも当然だった。

 けれど疑われていることに胸が軋む。

 婚約者でなくなれば――他人になれば、ひとかけらの優しさも与えられない。

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