白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

21. 都合の良い存在は誰が為に

 すでにずいぶんと遅い時間になってしまっている。だから食後のお茶の準備はすぐさま行われた。


 蜂蜜漬けの果実が入っているのだろうか。

 飾り気のない白いティーポットから、揃いのカップへと琥珀色をした紅茶が注がれるにつれ、甘酸っぱい香りが広がって来る。


 話したいこと、聞きたいことはたくさんあった。けれど今は時間がない。ロゼリエッタは躊躇(ためら)いながらも本題をそのまま問いかけた。

「私を捕らえようとした衛兵は、私がマーガス王太子殿下の暗殺を企てたと言っていました。そのような恐ろしい事件が起きていたことは、事実なのでしょうか」

 単刀直入に尋ねられると予想してはいなかったのか。シェイドは少し驚いたような反応を見せ、それから頷きで答える。

「ええ。殿下に出された紅茶に何らかの薬物が仕込まれていたことは事実です。幸いなことに異変にはすぐ気がつかれたので、口になさりはしませんでしたが」

「では王太子殿下はご無事なのですね」

 ロゼリエッタがマーガスの死を望む理由などどこにもない。

 無事であることは普通にとても喜ばしかった。クロードが巻き込まれた武力抗争の起こった隣国の王太子ではあってもマーガスに非はない。それくらいの判別はついているつもりだ。


 本当にクロードが命を落としていたのだとして。

 その死を引き金に誰かの命を確実に奪いたいと願うほどの絶望と毒物をロゼリエッタが手にしたのなら、他でもなく自分の命を絶つ為に使っていた。

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